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本誌連動企画

NuRADユーザー 実践レポート 第1回 NuRAD ×本田雅人

次世代ウインドコントローラーNuRAD
その魅力と実践的活用法を本田雅人が徹底レポート!!

進化系ウインドコントローラーNuRADが日本初披露目となったのは、2021年7月3日、本田雅人BANDのライブだった。以降、ステージのみならず、最新作「ETERNAL ISLAND」(和泉宏隆スペシャル・トリビュート・アルバム『UNFORGOTTEN SAGA』収録)でもプレイするなど、NuRADを愛用し続ける本田氏に、“彼流”の使いこなし術やカスタマイズ・ポイント、そして「ETERNAL ISLAND」の制作について語ってもらった。

● インタビュー・文 布施 雄一郎 ● 撮影 富田一也 ● 取材協力 島村楽器 新宿PePe店
● Presented by コウスキミュージックアンドサウンド

※サックス・ワールドVol.26( 2022/09/13発売)より転載

デジタル的な仕組みなのに、
 逆にすごく アナログっぽさを感じる

⚫ 1年半ほどNuRADを使い込んで、当初と印象が変わった点はありますか?

本田:最初はね、“カッコ悪いな”と思ったんですよ(笑)。それが今は、そう思わなくなりました。だって、サックスやウインドシンセの概念からすると、かなり変わった形をしているじゃないですか。

⚫ とても個性的なデザインですよね。

本田:だからルックスの第一印象は、“何だこれ?”だったんです(笑)。でも、例えばF1でも、遅いマシンはカッコ悪く見えるけど、それがだんだん強くなって優勝するようになってくると、カッコよく見えてくる。NuRADも同じで、いい仕事をしてくれるようになって、カッコよく見えてきました。機能面では、左右の手を対称に構えることに最初はかなり違和感があって。でもよく考えれば、僕はまったく構え方の違うフルートも吹いているし、“こういう楽器なんだ”と思って付き合っていくうちに自然と慣れました。そして使っていくうちに気付いたことがあって。NuRADはコントローラーだから、本来は音の特徴ってないはずなんですよ。でも面白いことに、同じ音源をNuRADと他のウインドシンセで鳴らすと音が違うんです。理論上は変わらないはずなのに、NuRADの方がいい音に聴こえることが多いんですよ。

⚫それは驚きですね。

本田:おそらく、センサーの感度やアタック感、ボリューム・カーブなどからくるものなんだと思います。これらの設定は変えられるので一概にどちらがどうという話ではありませんが、アタックのニュアンスなど、他のウインドシンセと音が違うことは確かで、今の自分にとってはNuRADが一番いい音で吹ける気がしています。

⚫パラメーターのセッティングはどのようにされているのですか?

本田:前提として、NuRADはハンドメイドですから、個体によって感度などに多少のバラつきがあって、僕が使っている3モデル(写真①②)とも設定値は微妙に違います。そのうえで一番よく使っているHONDAパープル・カスタムだと、ブレス・カーブが【Z2】(写真③-上)、ビブラートの深さ(デプス)が【3】(写真③-中)、センサーの感度(センス・バイト)が【8】(写真③-下)です。ボリューム・カーブは、吹いた感触が一番よかったものが、たまたま【Z2】だったということですが、ビブラートは自分の表現として大事なものなので、ここは細かく設定しました。ビブラートの仕組みって、デジタル的に言えばピッチを動かすだけなんです。でもこれには、そこにちょっとした揺らぎがあって、吹奏楽器らしさがあるんです。いろんなウインドシンセの中でも、僕の感覚ではNuRADとEWIのビブラートが一番自然。デジタル的な仕組みなのに、逆にすごくアナログっぽさを感じます。

⚫なるほど。あと、今日お持ちいただいたモデルは独自のカスタマイズを施した“本田スペシャル”だそうですね。どういう点をカスタマイズしているのですか?

本田:まず、EWIのオクターブ・ローラーを移植してもらいました(写真④)。自分にとって一番スムーズに動かせるローラーのサイズで、しかも±0のローラーにギザギザが入っているので、指の感触でスタート・ポイントが分かるんです。そのローラー奥にはグライド・プレートを付けてもらいました。

⚫他にカスタマイズした箇所はありますか?

本田:僕は元気よく見えるように楽器を上に向けてソプラノ・サックスのような感じで吹くので(写真⑤⑥)、そのときに本体のバランスがよくなるようにストラップの取り付け位置を少し高くしてもらっています(写真②)

⚫では、よく使う音源は?

本田:今はウインドシンセ専用のソフトウェア音源“IFW”(画面①)だけです(※本田氏は限定クローズドβ版iOSアプリを使用)。iPad miniで使っていて、この手軽さがいいですよね。昔だったらウインドシンセを使おうとすると、EWI本体と、重たくて大きな2Uのハード音源を持っていかねばならず、すごく大がかりでした。だから以前は、ちょっとしたライブだと持っていくのを諦めていたんです。PCM音源を内蔵したウインドシンセなら荷物は減りますが、自分的にはあの音源だと表現が難しくて。それがNuRADなら納得いく表現ができて、しかも本体ケースにシステムすべてを納められるくらいお手軽ですから、最近は今まで以上に、頻繁にウインドシンセを吹くようになりましたね。

写真① 11色の豊富なカラー・バリエーションの中から、本田は(手前より)、カインドオブブルー、HONDAパープル・カスタム、プロフォンドロッソの3本を所有している。中央のパープル・カラーが本田のメイン・モデル。 ※ 2022年9月時点

写真② 本田が所有するNuRADの背面。オクターブ・ローラーの形状やストラップの取り付け位置、増設されたグライド・スイッチの位置などで、3本それぞれ独自のカスタマイズが施されている。


写真③ 本田が所有するNuRADの背面。オクターブ・ローラーの形状やストラップの取り付け位置、増設されたグライド・スイッチの位置などで、3本それぞれ独自のカスタマイズが施されている。写真上:ブレス・カーブの設定(本田は【Z2】に設定)写真中:ビブラートの深さ(デプス)の設定(本田は【3】に設定)写真下:ビブラートのセンサーの感度(センス・バイト)の設定(本田は【8】に設定)

写真④ HONDAパープル・カスタムのモデルのオクターブ・ローラーはEWIから移植されたもの。通常モデルよりローラーの径が太く、基本となるオクターブ・ゼロのポジションの確認が容易なように、ギザギザのローラーが採用されている。

NuRADに出会ってから、
 ウインドシンセを吹く機会が増えた

⚫ 『UNFORGOTTEN SAGA』で本田さんが書きおろした楽曲「ETERNAL ISLAND」も、NuRADでレコーディングしたそうですね。

本田:そうです。和泉さんのトリビュートということで、「宝島」のような楽しげな、笑顔になれる曲をイメージしていたら、自然とウインドシンセの曲がいいなと思って。それでNuRADを使って、自分で作り込んだ音色「HONDANA2」でレコーディングしました。IFWのファクトリー・プリセットには、僕がEWIで吹いていた音を再現してくれている音色があって。僕の名前をモジって「HONDANA」っていう名前なんですよ(笑)。それを元にして、いろいろと自分流に設定を変えて作り込んだ音色が「HONDANA2」。これを使って、今日と同じセッティングでレコーディングしました。

⚫ということは、オーディオ・インターフェースなどは別途用意せずに、ステレオ・ミニ出力をそのまま録ったのですか?

本田:そうなんですよ。でもCDを聴いてもらったら分かると思いますが、まったく問題のない、すごくいい音でしょ? 基本的に音作りはIFW内で完結させていて、エンジニアさんもほとんど手を加えていないと思います。

⚫これだけシンプルなシステムで、あんなにいい音が出せるなんて、本当に驚きです。

本田:だから本当に、NuRADをきっかけにウインドシンセ界全体が盛り上がるといいですよね。よく“管楽器の経験がなくても、NuRADを演奏できますか?”と質問されるんですが、経験がなくとも大丈夫ですし、もちろんサックスが吹ける方なら、より楽しめると思います。プロフェッショナルなモデルなので安くはありませんが、ちゃんとしたサックスを買おうとするともっと高額ですから、入門的に使うのも悪くないと思います。それに今の世の中、自宅で音量の大きな管楽器を練習するのはなかなか難しいですよね。でもこういう楽器を使えば、夜中であってもいつでも練習できるメリットは大きいと思います。僕自身、T-SUQUAREに加入したころは自宅でずっとEWIを吹いていたんですよ。当然、サックスとの違いはありますが、“音楽を奏でる”という意味での頭の活性化に、すごくEWIには助けられたし、勉強にもなりました。NuRADでも同じですから、これは大きなメリットだと思います。サックス奏者からすると、オクターブ・ローラーやマウスピース、タッチ・センサー式キィといったデジタル部分は最初こそとっつきにくいでしょうが、実際に演奏してみると実に理に適っていて、アナログ感覚でとても吹きやすい。しかも手軽で可搬性もいいので、僕自身、NuRADに出会ってから、ウインドシンセをプレイする機会がとても増えました。そこが一番の魅力ですね。

画面① ウインドシンセに特化して開発されたソフト音源“IFW”(Instrument For Wind controllers)。本田氏は限定クローズドβ版iOSアプリをiPad miniにインストールして使用。

 


写真⑤⑥ 上の写真が通常のNuRADの構え方。本田は写真下のようにソプラノ・サックスのように上に向けたポジションで演奏しており、この構え方でバランスがとれるように、ストラップの取り付け位置をレギュラーより上部に変更している(写真②を参照)。

Profile 本田雅人[ほんだ・まさと] 
音楽教員の両親の影響で幼少から音楽に興味を持ち、小学三年生でサックスを始める。国立音楽大在学中よりプロ活動を開始。1991年にT-SQUAREに加入すると、バンドのフロントを務めると共に、作曲、アレンジの面でも新風を巻き起こす。1998年にT-SQUAREを離れたのち、多くのアーティストのレコーディングやアレンジ、プロデュースなどで多方面に渡って精力的に活動している。また、現在は昭和音楽大学の客員教授として後進の指導に当たる

■本田雅人 RuRAD演奏音源収録アルバム
和泉宏隆スペシャル・トリビュート・アルバム 『UNFORGOTTEN SAGA』

2021年に急逝した元T-SQUAREのピアニスト和泉宏隆を悼んで、当代トップ・アーティストが集結した追悼アルバム。総合プロデュースは鳥山雄司(g)が担当。和泉の未公開楽曲や音源もフィーチャー、さらに書き下ろしの楽曲提供や海外アーティストの参加、1990年代のニューヨーク録音秘蔵音源の収録などを収録。本田は本作のために書き下ろした楽曲「ETERNAL ISLAND」を提供、NuRADをプレイしている。同曲ではT-SQUARE時代の盟友、須藤満(b)、則竹裕之(ds)が演奏に参加。

『UNFORGOTTEN SAGA』をAmazonで購入



NuRADのオプション・カラー 左からトワイライト、スノー&アイス、パープルレイン


■Berglund Instruments NuRADR2
価格 258,500円 (ベーシック・モデル/税込)
価格 267,300円 (Lipoバッテリー搭載モデル/税込)

主な特徴
● スタイナーホーンとEWIの基本的な演奏方法を踏襲
● バイト・センサーに高精度の気圧センサーを採用。更に細かいニュアンスが再現可能に
● 本体重量約650g、長さ46cm 幅14.5cm 高さ4.5cmと超軽量コンパクト設計
● 有機ELディスプレイを搭載。ブレスカーブや感度の調整や、MIDIの設定などをエディター不要で調整可能
● 本体バック・パネルに装着されている5 PIN DIN 端子からMIDI出力するのと同時に、NuRADからは同じ端子から常時CVアナログ信号も出力。別売のCV-Board for EuroRack、もしくはCVXG-Board for EuroRackのに接続すると、モジュール内でCV信号を取り出してアナログCV出力変換(ミニプラグ)し、外部のアナログ・シンセサイザーなどの音源との接続が可能に。
● 標準カラーObsidianに加え、オプション8色を用意 (カラーによって有償オプションの場合があります)。
● ストラップを使用しての演奏スタイルのほかに、付属ハンドレストを使用してのストラップレス奏法にも対応
● Lipoバッテリー・オプションを搭載することで最大14時間の駆動が可能

製品Webサイト

㉄ コウスキミュージックアンドサウンド
TEL:048-494-1017 
E-mail:info@kohske.com
Web https://kohske.com/


LATEST ISSUE


2025年6月13日発売

サックス・ワールドVol.37

◎表紙&巻頭特集 T-SQUARE

インタビュー ブランフォード・マルサリス
対談企画 佳子(CiON)× 中園亜美
ジャズの巨匠 アール・ボスティック

◎ビンテージ・サックス・ミュージアム
 ユリウス・カイルヴェルト創立100周年

◎ジャズ・スタンダード・サックス・コンテスト2025開催!! 課題曲提供:米澤美玖

ホーン・セクションにおけるサックス演奏のノウハウを紹介! 講師:小池 修&山本 一

◎付属CD&スコア連動企画(模範演奏&カラオケ)
・「真夏の果実」サザンオールスターズ
     演奏:伊勢賢治(ss)
・「ストリート・オブ・ドリームス」
     演奏:青柳 誠(as/ts)
・バッハ「無伴奏チェロ組曲 第1番ト長調 BWV1007 クーラント」
    演奏:門田”JAW”晃介(ts)
・ラフマニノフ「交響曲第2番第3楽章 アダージョ」
   演奏:千野哲太(ss)

 

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