1970年代にマイケル・ブレッカーが愛用したことで知られるSteinerphone。その流れを汲むEWIオリジナル開発者、ナイル・スタイナーの開発チームが2020年に生み出したNuRAD。その魅力と実力を紹介する宮崎隆睦(元T-SQUARE)連載の最終回は、NuRADならではの大きな魅力のひとつ、CV出力を使ったアナログ・シンセの演奏感にスポットを当ててもらった。
● インタビュー・文 布施 雄一郎 ● 撮影 富田一也 ● 取材協力 島村楽器 新宿PePe店
● Presented by コウスキミュージックアンドサウンド
NuRADのCV出力は
より人間らしい息づかいを上手く表現してくれる
⚫ 宮崎さんがNuRADを購入したのは、アナログ・シンセを鳴らせるCV出力機能が決め手だったそうですね。
僕も多くのT-SQUAREファン、伊東たけしさんファンと同じように、1980年代にT-SQUAREを聴いて“うわぁ、リリコン!”と憧れていた人間なので、ずっとウインドコントローラーでアナログ・シンセを鳴らしてみたいと思っていました。でも、アカイEWIもアナログの時代が終わった今、なかなかそうした機会がなくて。それが縁あって、最近リリコンを手に入れられたんです。それを吹いたとき、音の太さや高音域の伸びに“これは楽器だ!”って感じたんですね。デジタルで何かをコントロールしているのではなく、本当に人間が演奏する楽器だという印象がものすごく強くて。ただ、ずっとEWIを吹いてきた僕には、リリコンの操作にかなり苦戦しました。そんなときに、操作性や機能性は最新で、CV出力が用意されているNuRADを知って、“これは絶対に欲しい!”と思ったんです。
⚫ 鳴らす音源がデジタルかアナログで、それほどフィーリングが違うんですね。
僕はEWI最後のアナログ音源、EWI3020m(1994年発売)を吹いていたので、そこからデジタルに移行したときの大変さをよく覚えているんですよ。デジタルになって、息が音になる感覚が、より明確で、ものすごくクリアになったんです。
⚫ えっ、それが大変だったのですか?
“こんなに簡単に吹けちゃうんだ”と思ったんです。つまり、デジタルになって性能は格段にアップしたけど、息づかいがダイレクトに音がなりすぎて、細かいニュアンスが表現しづらいというか……“遊び”がまったくなくなったように感じたんです。でもNuRADなら、さすがトランペット奏者であるナイル・スタイナーさんが開発に関わっているだけあって、吹奏感がとても自然。もちろん、MIDIを使ってデジタルのソフト・シンセを鳴らしても申し分ない表現ができるんですよ。でも、それ以上にCV(※1)を使うことでブレス感がもの滑らかになりますし、“もう少しだけ弱いところから音を奏でたい”といったような、より人間らしい息づかいを上手く表現してくれるんです。僕がNuRADで最初に試したアナログ・シンセはベリンガーMODEL D。いわゆる名器モーグMinimoogのクローン・モデルですが、音に粘りがあって、吹いていてものすごく気持ち良かったです。
※1 CV(Control Voltage):シンセサイザーの音程の変化量を伝えるための電気信号。高い音程に行くほど高い電圧を出力する。
MIDIでの表現に物足りなさを感じている
プレイヤーは ぜひ試してみて欲しい
⚫ NuRAD本体にCV出力端子がありますが(※2)、宮崎さんはユーロラック仕様の専用CVモジュール(別売/写真1)をお使いだそうですね。
本体のCV出力はブレスのニュアンスをより繊細に表現するためのもの(音階はMIDIで正確にコントロールする)ですが、専用CVモジュールを使えば、ブレスに加えて、ピッチをコントロールするCVも出力できて、(MIDI非対応の)ビンテージ・シンセも演奏できるんです。しかも、専用CVモジュールのため買ったユーロラックの空きスペースに、例えばエフェクター的に使えるモジュールを追加して、それとアナログ・シンセを組み合わせて使うようなこともできるじゃないですか。そういう世界に足を踏み入れられる点も、とても面白いなって思います。
⚫ アナログ・シンセを鳴らすというと、どこか懐古的にも感じられますが、実際はむしろより自然かつ繊細な表現ができて、しかも新しいサウンドを作り出せるという、新しい可能性を秘めたCV機能なんですね。
まさにそこに魅力を感じています。それに最近の現行アナログ・シンセは、価格も手頃で本当に使いやすいモデルがたくさん発売されているので、MIDIでの表現に物足りなさを感じているプレイヤーには、ぜひ試してみて欲しいですね。1つだけ専用CVモジュールを使う際の注意点は、一般的なMIDIケーブルって、実は5ピンのうち2つしかつながっていない物があるんです。それだと音が鳴らないので、5ピンすべてが結線されたケーブルを使うようにしてください。
⚫ アドバイスありがとうございます。では改めて、宮崎さんが感じているNuRADの一番の推しポイントを教えてください。
やはり、ブレス・カーブ(写真2)を簡単に、好みによって変えられる点はとても大きいと思います。自分の感覚に一番フィットするカーブはもちろん、音色をより活かせるカーブを選ぶこともできるし、それを本体後ろにあるパネルで簡単に切り替えられるので、吹奏楽器プレイヤーにはいろんなメリットが生まれてくる機能だと思います。さらにNuRADはフィルターの開け閉めといったコントロールもできますから、今回紹介したようにCV出力を使ってアナログ・シンセを鳴らすと、本当に多彩なニュアンスを表現できます。このように、NuRADは僕らが考えつくような機能はほぼすべてカバーされていて、おそらく今後もシステムはアップデートされていくでしょうから、楽器そのものもが演奏の可能性を広げてくれますし、それをどう音楽的に活用できるか、それを考えることで、プレイヤーとしての自分の可能性も広げていけます。そんなNuRADって、ミュージシャンにとって、本当に研究し甲斐のある楽器だなって思っています。
※2 NuRAD R2本体にはCV出力はありません。CVを出力するには、別売の CV-Board for EuroRack もしくは CVXG-Board for EuroRackをご使用ください。
写真①宮崎がNuRADのCV出力のコントロールで使用しているアナログ・シンセのセット。写真右のユーロラック内には左より、NuRAD専用にオプションとして販売されているCV Board、LyriconⅡ用ドライバー・コントローラー、uVCA II(VCA)、Intellijel DesignsのTriplatt(アッテネータ)をセット。写真左はアナログ・シンセサイザー・モジュール、Tom Oberheim MARION SYSTEMS CORPORATION SEM PRO。
写真②NuRADは本体背面の有機ELディスプレイを見ながらブレス・カーブが12段階で切り変え可能なほか、ブレス感度やMIDI設定など様々な調整を本体のみで行うことができる。。
Profile 宮崎隆睦[みやざき・たかひろ]
1969年生まれ 神戸市出身。バークリー音楽院に留学し帰国後1998年にT-SQUAREに加入。同バンドに2000年まで在籍。2006年ポニーキャニオン(Leafage jazz)より初のソロ・アルバム『ノスタルジア』を発売。2016年7月、サックス四重奏“CLOPS”でDVDをリリースし好評を博す。2019年12月、元WARのハーモニカ奏者リー・オスカーのプロデュースの下、アメリカ録音のアルバム『Love means…More Than Words Can Say』をリリース。
NuRADのオプション・カラー 左からトワイライト、スノー&アイス、パープルレイン
■Berglund Instruments NuRADR2
価格 258,500円 (ベーシック・モデル/税込)
価格 267,300円 (Lipoバッテリー搭載モデル/税込)
主な特徴
● スタイナーホーンとEWIの基本的な演奏方法を踏襲
● バイト・センサーに高精度の気圧センサーを採用。更に細かいニュアンスが再現可能に
● 本体重量約650g、長さ46cm 幅14.5cm 高さ4.5cmと超軽量コンパクト設計
● 有機ELディスプレイを搭載。ブレスカーブや感度の調整や、MIDIの設定などをエディター不要で調整可能
● 本体バック・パネルに装着されている5 PIN DIN 端子からMIDI出力するのと同時に、NuRADからは同じ端子から常時CVアナログ信号も出力。別売のCV-Board for EuroRack、もしくはCVXG-Board for EuroRackのに接続すると、モジュール内でCV信号を取り出してアナログCV出力変換(ミニプラグ)し、外部のアナログ・シンセサイザーなどの音源との接続が可能に。
● 標準カラーObsidianに加え、オプション8色を用意 (カラーによって有償オプションの場合があります)。
● ストラップを使用しての演奏スタイルのほかに、付属ハンドレストを使用してのストラップレス奏法にも対応
● Lipoバッテリー・オプションを搭載することで最大14時間の駆動が可能
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