電子楽器のローランドが管楽器プレイヤーに提案する全く新しいコンセプトのデジタル・ウインド楽器が“エアロフォン”だ。昨年10月に発売されたばかりながら、すでに多くの管楽器奏者がエアロフォンを入手し、品切れするほどの人気を集めているという。今回は松任谷由実のライブ・サポートや弊誌の付属CDでの演奏などでおなじみの伊勢賢治氏がエアロフォンをチェック! デジタル楽器ならではの魅力とその可能性について語っていただいた。
取材・文:サックス・ワールド編集部、撮影:言美 歩(製品写真を除く)
サックスの代わりになりうる可能性をエアロフォンは持っていますね
● 伊勢さんはこれまでにウインド・シンセを演奏されたことがありますか?
● はい。ウインド・シンセはアカイのEWI3030からスタートして、ヤマハのWX11も使ってました。その後仕事で演奏する機会が少なくなり数年ブランクがあったのですが、現在はEWI5000を演奏しています。
● 伊勢さんはサックス以外にもキーボードやパーカッションなど様々な楽器を演奏されますよね。マルチ・プレイヤーという立場から見て、ウインド・シンセに何を求めていますか?
● 僕の場合はキーボードも演奏するので、管楽器……いわゆる生楽器では出ない音をウインド・シンセで表現したいですね。例えば息づかいのあるブラス・セクションのサウンドを一人で表現したいとき。キーボードの手弾きじゃできないような人間的な表現も、ウインド・シンセを使えば可能になります。あとは生楽器で出ない音。テルミンのような電子音を有機的にコントロールできることに魅力を感じます。
● ウインド・シンセでは、どのような音色をよく使われてますか?
● 1970年代から80年代のフュージョンでよく使われた少しシンセっぽいパン・フルートや、ハーモニカの音色はライブでもよく使います。
● エアロフォンのファースト・インプレッションはいかがでしたか?
● エアロフォンで一番評価したいところはサックスの運指に近いことですね。特にサイド・キィまでちゃんと表現されているというのはサックス奏者にとってはすごく嬉しいことですよ。僕はそこにすごく可能性を感じました。
● これまでのウインド・シンセと比較してはいかがですか?
● これまでのウインド・シンセは最初に触った時点で“これはサックスじゃないぞっ”ていう感触がありました。一方エアロフォンは、サックスの代わりになりうる可能性を持っていますね。本番前の楽屋などでサックスの音が出せない場所でもエアロフォンなら気兼ねなく使える。ギタリストはどこでもギターが弾けるわけですが、あれがうらやましいんですよね、サックス奏者にとっては(笑)。
● プロでも音出しに関する悩みは……。
● あります。特にツアー中のホテルなどではすごく。ホテルで運指や音の確認をしたいときはエアロフォンのような楽器が必要ですね。
サイド・キィの感触は最高! ピッタリくる感じです
● ではエアロフォンを実際に演奏されての感想をお聞かせください。まず吹奏感は?
●サックスをやってない人が演奏しても、エアロフォンなら“スッ”と息が入るので吹きやすいと思います。逆にいつも“ウワッッ”と息を入れてサックスを吹いている人には、ちょっと物足りなく感じるかもしれないですね。でも、それはサックスとは別モノと考えたとしたらまったく問題ない、慣れれば大丈夫です。逆にそこに“サックスと同じ”というものを求めない方が楽器としてはいいですね。反応に関しては、自分がキィを押したポイントと発音がほんの少しずれることがあるので、早いフレーズを吹くときに若干気になる人がいるかもしれないですね。でも普通に演奏する分には問題なく使えますよ。
● エアロフォンにはリードが付いていますよね。
●これはリードの形状をしていますが、あくまでもキーボードでピッチ・ベンドの役割をするものですね。この場合リードではなく、リコーダーを吹く感覚で演奏した方が楽だと思います。
● キィの操作性に関する感想は?
●ちょっと大きく感じるんですけど、セルマーの往年のモデルに近い感覚のキィ配列になっているので、マークⅥやマークⅦを使っている人には使いやすいんじゃないかな。
● 運指の練習にも充分使えると考えて大丈夫でしょうか。
●はい。充分使えます。
● サイド・キィの感触はいかがですか?
●サイド・キィの感触は最高ですね。特に左手のレ、レ#、ファのサイド・キィはこの位置にあってとても嬉しい。ピッタリくる感じです。
● フラジオ運指に関してはどうですか?
●フラジオっていろんな流派があるので、そのすべての運指に対応しているわけではないんですが面白いと思います。欲を言えばそのフラジオの運指を使わない人用にオン/オフができれば最高かな。
● オクターブ・キィの操作性は?
●オクターブ・キィは、現状だと若干ボタンを押した感が少ないので、サックスを吹いている人はいつもより多めに動かすぐらいの意識でいいかもしれませんね。
● エアロフォンはオクターブ・キィを使うことで7オクターブの音域が使えますが……。
●それに関する可能性はすごくありますね。本当の生楽器だと楽器を持ち替えなきゃいけない音域を、エアロフォンではある瞬間では低音域を担当、ある瞬間では高音域を担当って瞬時に切り替えられるのは魅力です。さらに音域ごとの音色の切り替えと組み合わせて使えたらもっと楽しくなると思います。
● サム・コントローラーに関しては?
●右手のベンドに関しては、EWIを使っている人はすごくそれに近い使い方ができると思いますが個人的にはエアロフォンの方が使いやすいですね。右手の親指の位置からすごく近いところにサム・コントローラーがあるのですが、誤操作をしない絶妙な位置なので操作性がすごくいいです。楽器自体は重くないので、サム・コントローラーを使うときだけサム・フックからちょっと一瞬浮かせても操作ができます。エアロフォンは演奏性がソプラノ・サックスに近いんですよ。充分軽いので僕はストラップを使わないんですよ。なので、ソプラノ・サックスに近い構え方になっています。そうするとサム・フックで楽器を支えるので、こういうふうに操作ができるんですよ(サム・フックに親指の第二関節上あたりをかけることでエアロフォンを支え、第一関節を動かしてサム・コントローラーを操作する)。
● なるほど! これだとサム・コントローラーを操作しやすいですね。続いて、音色に関してはいかがでしょうか。
●音色は自分でもよく使うパン・フルートやフルート、尺八はすごく面白い……いい音が入ってますね。あとハーモニカも最高です。二胡の音色も面白いなと思います。サックスは往年のローランド・サウンドっていう感じですね。生の音と思って吹くとちょっと違和感があるかもしれないですけど、でも“らしい”音が入ってる。サックス吹いてる方からするとちょっと物足りなくは感じるかもしれませんけど、問題はないと思います。
力がいらないっていうのは電子楽器の最大の特徴
● エアロフォンにはスピーカーが内蔵されていますね。
●吹きたいときにすぐ演奏できるっていうのは一番のメリットだと思います。ぽんっと持って、電源を入れればすぐ使えるのは嬉しいですね。
● ほかのウインド・シンセと比較した場合のメリット、デメリットもあればお聞かせください。
●ほかのウインド・シンセと比較した場合、エアロフォンはとにかくサックスに近いと言えますね。持った感じがそうだし、キィの位置もすごくサックスに近いというか、ほぼそのままなので、サックスを吹けない環境を打破するものとしての可能性は抜群です。操作性に関してもエアロフォンの方が楽器に不慣れな人がすぐ入門できるという点で使いやすいと思います。吹いたらだれでも音が出せるので、サックスのようにアンブシュアなどあまり気にしなくていいし、子供がピアノを触るような感覚で管楽器に近いものが演奏できるというアプローチはすごく面白いですね。
● エアロフォンの電子楽器ならではの魅力は?
●まずは音量の調節ができることと手軽さですね。あとは、本当にいろいろな音色で遊べる。サックスだけ練習しててもたまにフルート吹きたくなったり、吹奏楽で隣の楽器が楽しそうに見えたりとかすることがあるんですけど、エアロフォンはいろんな音色で演奏できるので楽しいですね。あとは、手のサイズによりますけど、まだサックスを吹くには口の周りの筋肉が発達していない小さなお子さん用の楽器としても可能性があると思います。サックスを吹かせてあげたいけど、その前段階の楽器としてリコーダーと同じ感覚ですぐに入れるのもいいし。あと逆に、少しお年を召されていて歯がない方でも音は出るので。そういう点でもすごく可能性のある楽器だと思います。力がいらないっていうのは電子楽器の最大の特徴ですね。
Profile 伊勢賢治[いせけんじ]
松任谷由実をはじめとする有名アーティストのツアーやレコーディング、セッションに参加するほか、楽曲提供やホーン/ストリングス・アレンジ、編曲なども行っている。サックス以外にも管楽器全般、ボーカル、パーカッション、ドラム、ピアノ、指揮法など、数種類の楽器を担当するマルチ・プレイヤーでもある。また、個人レッスン・吹奏楽部への指導なども行っている。
Roland Aerophone
オープン・プライス
実勢売価78,000円(税別)
【エアロフォンの主な仕様】
●キィ配列:サクソフォン互換キィ配列 ●音源:SuperNATURAL アコースティック、PCM シンセ ●プリセット・メモリー トーン:55(Ver.2.0) ●ユーザー・メモリー トーン:100 ●エフェクト:マルチ・エフェクト、コーラス、リバーブ ●コントローラー:ブレス・センサー、バイト・センサー、演奏キィ、オクターブ・キィ、サム・コントローラー、トーン・ボタン、メニュー・ボタン ●ディスプレイ:カスタムLCD ●接続端子:INPUT 端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、PHONES/OUTPUT 端子(ステレオ標準タイプ)、USB COMPUTER 端子(USB MIDI 対応)、DC IN 端子 ●内蔵スピーカー:2.8cm、1.5W×2 ●電源:AC アダプター(DC5.7V)、充電式ニッケル水素電池単3 形(別売)×6 ●消費電流:418mA ●連続使用時の電池の寿命(使用状態によって変動):充電式ニッケル水素電池:7時間 ※通常使用時 ※ マンガン乾電池、アルカリ乾電池は使用不可 ●外形寸法:128(幅)x 93(奥行)x 574(高さ)mm ●質量:855g(電池含む) ●主な付属品:取扱説明書、AC アダプター、マウスピース・キャップ、ネック・ストラップ、専用ケース ●別売品:交換用マウスピース
問い合わせ先:ローランドお客様相談センター
電話:050-3101-2555
Web :https://www.roland.com/jp/products/aerophone_ae-10/
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